今夜、シンデレラを奪いに
「そんなことは……」


なんだか真嶋の歯切れが悪い。いつもはぽんぽんと憎まれ口が返ってくるのに変な感じ。


不思議に思っている間に別のお客様から声がかかった。


「トパーズロジスティクスの池園と申します。

講演されていた分野について弊社がお役に立てるのではと思いまして」


声をかけてきたお客様の説明を聞いてピンときた。これは売れる。真嶋の講演を聞いてたから、技術的なことがわかっているのが役に立った。


「すぐにコンサルタントを連れて参ります。お時間があれば会議室にて詳しいお話を伺えますか?」


真嶋に手近な会議室へ連れて行って貰うように頼むと、何故か引き留められる。


「早急に打ち合わせするのは止めませんか?そう上手くいくとは限りません。」


「でもせっかくのチャンスでしょ?」


「しかし今案件を立ち上げても、コンサルタント多忙ですから……」


さっきから本当に変な感じ。


「何を躊躇してるの?新しい案件が始まったら楽しいって、真嶋もきっとすぐに分かるよ」


見上げると、真嶋から表情が抜け落ちててびっくりした。まるで氷の彫像みたい。


「矢野さんはこの仕事が好きですか?」


「当然!

もうっ、今急いでるんだから。ワケわかんないこと言ってないでお客様の相手してて。すぐに戻るから」
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