今夜、シンデレラを奪いに
「どうして真嶋が子供じみた駄菓子をオフィスで平然と食べてるのよ」


「もともと矢野さんに勧められた食品ですが」


「そうだけど!その貧乏舌が周りにバレるのは嫌がってたでしょ!?
冗談で言いふらそうとしたら私の口まで塞いで大慌てだったじゃない。」



「……は?」


真嶋はまるで天動説を信じていた人が初めて地動説を聞いたかのような「言ってる意味がわからない」という目をしている。


「覚えてないの?真嶋が立花さんを紹介してくれるって言ったのもその時だったでしょ?恐喝だとか騒いで」



「……………………」


沈黙の時間は長かった。何も言わずに頭を抱え込み、目を閉じて深く息をはいている。

悩める芸術家のような詩的な気配を漂わせているけど、口から漏れたのは「矢野さんが馬鹿だというのは分かっていたつもりだったのに」という不届きな言葉だ。



「今の流れの何処に私を馬鹿にする要素があったってのよ!?」



「何もかも、全てです。食の嗜好など隠す意味は無いでしょう。

………しかしあなたの鈍感さを見誤っていた俺の方が愚かなのか……」



ジトッとした目で私を睨んだ真嶋は私のデスクに飾っているカフリンクスをつまみ上げたので急いで取り返す。


「お菓子食べてた手で触らないでよ、青のりとか付いちゃうでしょ。持ち主に返すまで大事にしてるんだから」


「返せる見込みはあるんですか」


「まだ無いけど!誰かは知らないけどこの会社の人っていうのは分かってるの。こうして飾っとけば本人が見たらきっとわかるでしょ?」


「……そうでしょうね」



どことなく遠い目をして笑っている。


「今日は気分的に非常に疲れたので帰ります。」


そう言うなり真嶋はさっさとパソコンをしまって帰ってしまった。まったく何だっていうの。


「やっぱり最近の真嶋は変だ」


時々、上の空になる感じ。そして今日の謎なリアクション。何かあるに違いない。


この時から私はひっそりと真嶋の監視を始めた。
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