今夜、シンデレラを奪いに
真嶋はここで一番の若手なので会議の準備や議事録などの雑用もしているし、部署への問い合わせも率先して対応している。


全ての仕事が早くて正確。問い合わせの相手が女性の場合は、真嶋にぽーっとして仕事が進まなくなるというトラブルはあるけど、それ以外はいとも簡単に仕事を片付けている。



だから今まで気が付かなかったけれど、真嶋はふらっとオフィスからいなくなることがあった。不思議に思っている間に戻って来て、いつも行き先がつかめない。



そして、不審なことがもうひとつだけある。


「トパーズロジスティクスの仕切り算出の件、まだ?」


「すみません、類似製品の価格帯を調べていますので少々お待ちください。」


「先方が契約を待ち望んでるの知ってるでしょう?

明日までにできる範囲で見積もってくれれば良いから、これ以上待たせないで。」



いつもの真嶋なら数時間もかからずに終える仕事なのに、トパーズロジスティクスの仕切りだけはいつまでたっても仕上げないのだ。「明日までに提出してね」と念を押してその日は帰る。



にもかかわらず、その次の日。



「まだできてないってどういうこと?」


あれだけ急いでと言ったのに、すぐ終わる仕事を放置するなんて。いい加減に怒りが沸いてくる。


「こういうやり方は嫌いだけど、これ以上真嶋の仕事を待つつもりは無いから。

どんなに仕事ができても、お客様の想いに共感できない人に任せられる仕事は無いの。」


真嶋から強引にデータを受けとる。これでも私は真嶋の上司なんだから、ここで甘やかしたら駄目だ。


「……この契約は」


「え?」


「いえ、失礼しました」


真嶋は何か言いかけていたけど、すぐに言葉を引っ込める。でも今はそんなことはどうでもいい。急いで見積もりを済ませておきたい。


デスクに戻って真嶋から送られてきたデータを確認すると、どうして早く提出しなかったのと言いたくなるほど完璧な仕上がりだった。


仕切りを4.7という細かい単位まで出して、その裏付けまでしっかりと示してあった。


「できてるなら、なんで…………」


これを放置していたわけを聞こうとすると、すでに真嶋はオフィスから消えた後だった。
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