今夜、シンデレラを奪いに
その翌日のこと。



「西麻布……飲茶……ラフィアット…………」


「デートの誘いですか?」


「うぁ!?びっくりした!」


立花さんからのメッセージを見ていると真嶋に声をかけられる。昨日あれだけ怒ったのに、けろっと話しかけてくるとは予想外だ。



「昨日の今日で、真嶋は気まずいとか思わないの?」


「そんな悠長なことを思っている暇はありませんよ。矢野さんは連日怒りを引きずるような心ない上司には見えませんし。」


「あ、そう…………」


いつもと変わらない真嶋の様子に安心したのも束の間。


「それどころか、さっきから俺の事を注意深く観察している様子は健気としか言いようがありません。

怒った後で、いかに自然に話すかを考えていましたか?」


「あのね…………ちょっとは反省しろやボケッ!」


これが怒られた部下の態度なのと言いたくなるくらい、楽しげな表情でクスクスと笑っている。


確かに「昨日は怒りすぎたかな」とか「何から話せば良いだろう」とかぐるぐると考えていたけれども。



「…………まあ、昨日までのことは一旦置いとくわ。

せっかくのデートの前にストレス溜めてもしょうがないし。


飲茶なら気を使わずに楽しめそう。立花さん、わかってくれてるなぁ。」


「一見では入れない名店ですけどね。当然、ドレスコードもありますから気を付けて下さい。」


「げっ、本当に?

カジュアルな所で会おうって言ってくれてたんだけど」


「彼にとってはカジュアルな店ということでしょう。しかし心配は無用です。

矢野さんが不審者と思われないよう、おかしな挙動を見せたら俺がいつでも止めに入りますから。」


何も言わずに任せておけ、とでも言うように頷いているけれども、ここは突っ込まずにはいられない。


「あんたね……ほっといたら私が不審者と間違えられると思ってるの?

これでもまっとうな大人、私だって一応エヴァーの社員なの。ちゃんとしたお店くらい行けるってば。」


「いえ、本人のセルフイメージと実態は往々にして異なっています」


真顔で心配されて体から力が抜ける。私は一体どんなヒトだと思われてるんだろうか。


「とにかく、もうついてこなくていいからね!」


きっぱりと言い含めて仕事に戻る。夜のデートを楽しむためにも、急ぎの仕事をきちんと終らせておきたい。


しかし、モニターに向かってからしばらくすると真嶋がそっと席を立つのが視界の端に見えた。



今までも何度かふらっといなくなっていたから、何をしているのか気になっていた。



真嶋だから心配ないとは思うけど、もし仕事をサボってるなら注意しなきゃいけないし……。



…………やっぱり、気になる。



遠ざかる真嶋の背中を追いかけて、ごめんと心の中で謝りつつ影に隠れた。急ぐように足を向ける先で、一体何をしているんだろう?
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