今夜、シンデレラを奪いに
オーク財閥という巨大組織で監査役をしている彼は、この歳にして既に欲にまみれた人の醜さを知り尽くしている。彼の外見は一点の曇りもなく澄んでいるけれど、これまで、その胸の内にいくつの矛盾や怒りを飲み下してきたのだろう。


「元を辿れば私の親族の不始末ですから」


「いいか?今回の件について何かひとつでも君が責任を感じてるなら、それは絶対間違ってる。

エヴァーの体質の問題だよ。古い財閥の権威を引きずってる。君が生まれる前からそうなんだ。」


声を大きくすると、彼は微かに笑った。


「私はその財閥の一員ですから、他人事ではありません」


「それでもだよ。君はまるで……」


彼にかけるべき言葉を探していたら、不意に第三者の気配を感じて押し黙る。


自分はどういうわけかこの手の勘を外したことが無い。部屋の外でこちらの様子をうかがっているのは、企画営業課に巣食う卑怯なネズミだろうか。
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