今夜、シンデレラを奪いに
執務室に入るなり、高柳さんの秘書に睨まれる。彼女はタイトなスーツを着こなして、髪を綺麗にまとめている。遠目に見てもはっきりとわかる美人だ。


「高柳さん、この女は何者ですか?」


値踏みするような目で上から下まで眺められた。さっきも怖かったけど、この女性も違った意味で怖い。勝ち気そうな顔立ちは整っていて迫力がある。


この部屋の中だけを見ればやたらと怖い美男美女が二人。とてもシステム開発の会社とは思えない。



「永田さん、ちょうど良かった。こちらは営業本部の矢野さんだ。

訳ありなんで所持品のチェックを頼む。 ボイスレコーダーとか、集音マイクとかを持ってなければそれでいい。」


「はい、かしこまりました」


うやうやしく頭を下げた彼女は、別室に私を連れていくと「あんた何したの?」とニヤっと笑って全身をくまなくチェックした。秘書なのにどうしてこんなことに手慣れているのだろうか。ここは社内の秘密警察?


「妙な道具なんか持ってませんってば。私が何をしたと思ってるんですか!?」


「分かっているのは、不法侵入だな」


高柳さんは単純明快、そして反論しようのない罪状を告げ、「今の所、それ以上のことはしていないようで安心した」と表情を弛めさえする。


「だが、裏が取れるまではここにいてもらおうか。」


そのようにして、私は戦略事業部 事業部長の執務室で過ごした。


所持品の徹底的な調べ上げに、「裏がとれるまで」という恐ろしい言葉。ましてや相手はあの有名な鬼畜、高柳さんだ。


生きた心地がしないけれど、少しでも情状酌量を考えてもらえために必死で仕事をする。


そして時刻が定時時間になった頃。


「お疲れ様。色々と疑って悪かった。

矢野さんは関係無いようなので社員証は返すよ。これに懲りたら無断立ち入りはしないことだ」



「は…………い、すみませんでした。
あの、私が何と関係してると思われていたんですか?」
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