今夜、シンデレラを奪いに
「悪いけど、機密事項だ」



結局何が何やら分からないまま、会社を出る頃には心労でフラフラになっていた。それでも立花さんとのデートのために身なりを整えて、急いで西麻布に向かう。


「遅くなってすみません」


「こっちこそ急な誘いでごめんね。どうしても透子さんに会いたくなって」


紳士で優しい立花さん。リップサービスだとしても、優しい言葉は嬉しい。心身ともに疲れきってる今なら尚更だ。


飲茶のレストランは西麻布の喧騒が嘘のような落ち着いたお店だった。壁には果実酒が浸けられた瓶がオブジェのように並んでいる。


ガラスの茶器にお湯が注がれると、花茶が綻んで大輪の花が咲いた。華やかなお茶は見ているだけで癒される。


「きれいですね……」


「元気ない?今日はちょっと疲れてるみたいだね」


「久々に、職場で怒られまして」


規律違反で叱られたと言うわけにもいかずに誤魔化すように笑うと、「嫌なことは忘れるに限るよ」と二件目のお店に連れていってくれる。


外資系ホテルの高層階のバー。会社近くのルミナスレインとは違う大人のムードが漂う薄暗い空間だった。窓辺のソファ席からは都会の夜景が見渡せる。


グレープフルーツが乗った淡い色のカクテルに口をつけると、いつもより体がフワフワした。


「普段から、真嶋とはよく会ってるんですか?」


「違うでしょ、透子さん。二人でナツ以外の話題を増やそうって言ったよね?」


おっとりと笑った立花さんと肩がぶつかった。距離感に戸惑って視線がさまようと耳元で「可愛い」と声がする。


紳士的に見える立花さんの、意外と肉食っぽい様子に思わずドキっとする。








なのに。



『だらしない座り方のせいで足がもっと太く見えます。ご注意を』


携帯に表示されたメッセージにドキドキのムードも吹き飛んだ。


膝を揃えて座り直し、立花さんに見えないようにぐっと拳を握り締める。あいつは私を監視をしてるの!?
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