今夜、シンデレラを奪いに
「それはもう忘れてください!」


思わず言い返すと、小さく笑ってる気配がする。私がどんな思いでいるか知らないくせに。


「まずはここを出ませんか?頑張って携帯を探せば少しは明かりもつきますし」


「俺もそうしたいが、既に全フロアのドアが自動施錠された後だ。朝四時まではここから出られない。」


「そうなんですか!?」


どうしよう。こんなところに閉じ込められるなんて。



「もうひとつ言うと、ここはあなたが寝てた場所じゃない。

あの人達からあなたの姿を隠すのに、会議室に移動したから」



「隠してくれたんですか……?でもどうして?」



「知らなくていい。要はあなたの手荷物はこの部屋にはないということだ」



また「知らなくていい」だ。一連の出来事については、何も教えてくれないらしい。


「つまり朝の四時まであなたと二人、真っ暗闇の中にいなきゃいけないってことですか!」


「……随分な言い種だな。あなたが暴れて転ばなければ、十分外に出る時間はあった訳だが。」


しれっと言い返されて言葉に詰まる。どうやら私のせい予定が狂ったらしい。悔しいけど私に責任が無いとは言えない……かもしれない。



「……それは、すみません、でしたっ!」


「わかればいい」


まるで出来の悪い生徒に説教でもするみたいな言い方。

何を聞いても「知らなくていい」と言われ、会話もままならない。この状態でどうやって朝まで時間を潰したらいいんだろう。


「……何か明かりが点くもの持ってませんか?携帯とか、ライトとか」


「あなたに顔を見られたくないから出さない」


「はぁ!?」


そんな理由で真っ暗闇にさせられてるなんて。明かりが少しあるだけでどんなに安心できるかわからないのに。


「顔なんて見ても忘れますから点けて下さいよ!」


「大抵の人はそうじゃないから無理だと思う」


自分の顔は一度見たら忘れないだろうって?

そんなことを言うのは余程変わった顔をしているか、そうでなければ余程自信があるか、だ。


「そう言われるとどんな面構えしてるか余計に見てやりたくなりますけどっ」


「面構え」と繰り返すように言って、その人は笑った。


「暗闇というのはマイナスばかりでもない。案外便利なこともある。」


「これのどこが便利なんですか?」


「例えば、気持ちの整理をつけやすい。

…………コウガミに関することとか」
< 7 / 125 >

この作品をシェア

pagetop