今夜、シンデレラを奪いに
「…………!」


薄暗いとはいえ、ここはお店の中。急にキスするなんて全くの予想外だ。



「俺は、もう本気だよ。透子さんのことをもっとよく知りたい」


優しい手つきで髪を撫でられて、ますます違和感が膨らんでいく。


「ちょっと、お手洗いに……」


心を沈めるために言い訳して席を立った。化粧室の大きな鏡に映った顔を見ると、口紅が少しだけ取れかけていた。さっきのキス……。


頭が混乱するばかりでちっとも落ち着かない。それに疲れた体で飲んだせいで、歩くとお酒がぐるぐる回る。本当は今すぐ家のベッドに寝転びたい。



お店に戻ろうとすると、足がもつれた。


「あっ」


転びそうになったところで人にぶつかる。「すみません」と謝って顔を上げると、驚いたことに相手は真嶋だった。何故か針のように尖った視線で睨み付けられる。




「許しません」


「な、な、何をよ!?

だいたい、さっきのメッセージはいくらなんでも酷いんじゃないの!?私の方が腹が立ってるんだから」



「必要な指摘をしたまでですが。

途中から無視したでしょう?そのせいでこんなことになっているんですよ」


「こんなことって……」


「見せつけるように体の線を出して、しかも泥酔ですか?

それでは襲えと言ってるようなもの。」


急に体を抱え上げられて、びっくりして「ひゃ」と声が出る。これはお姫様抱っこ?まさか人生の中で自分がされるとは思っていなかった。


「変な声をあげないで下さい。無理矢理連れ込んだと思われたら、俺が捕まります。」


「じゃあ下ろしてよ!

何処に行こうとしてるの?お店と反対方向でしょ」


「相変わらず察しが悪いですね。

逃がしてあげられるのは今日が最後ですからね」



エレベータで何階かに降りて、真嶋は私を抱えたままで客室に入った。ベッドに下ろされて、部屋に備えられている冷蔵庫から水を取って手渡される。



「あり、がと。でも、戻らないと急に居なくなったら立花さんに悪いから…………」


「それは適当に理由をつけておきます。

それより今日は急にオフィスからいなくなってどうしました?探しましたよ。」



真嶋を追いかけた結果、高柳さんに軟禁されてました。


と言うわけにはいかないんだろうな。真嶋が何も言わないなら、エグゼクティブフロアで見たことは詮索したら駄目だ。
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