今夜、シンデレラを奪いに
「急な仕事があっただけ。私にもいろいろあるの。

私のこと探してたの?仕事で困ってることでもあった?」



「ひとつだけ伝えておきたいことがあったので」



真嶋はベッドサイドの椅子に座った。寝転んだままその綺麗な顔をぼーっと眺める。



「しかしさっきの様子を見て、ひとつでは済まなくなりました。

怯えるくらいならキスを断るべきですよ、愚か者」



「でもさ、私はそういうのを拒んでいいような立場じゃないもん。立花さんだって私みたいなのに断られたらショックでしょ。」


「あなたは訳の解らない劣等感でキスするんですか?

それどころか足を開くことも躊躇わないと?」


「足を開くとか言うな!言い方考えてよ」


軽い女って言われてるようでムカっとした。真嶋には恋愛市場における弱者の立場なんか、わかるはずがない。


「……その先はさすがに困るなって、さっきトイレで考えてて」


「そうですか。少なくともあなたのキスに対する感覚は欧米人とさほど変わらないようですね。」



「違うってば。例えば私が美人さんとかなら言いたい放題言えるかもしれないけど。」


「……戯れ言ですね。あなたは美しいということを誤解しているんです。」


そりゃー真嶋はそんな顔をしてるわけだし?

美とは何かなんて考えなくてもわかるんだろう。ひねくれた気持ちになって小さくため息をため息をつく。


「俺にとっては、かつて『美しい』というのは世界一退屈な賛辞でした。

しかも、そう言われると何故か礼まで返さないといけないことになっている。理不尽な追加徴税でも受けているような気分になります。」


「……スゴい感想ね。そういうこと思えるのって世界で何人もいないと思うよ」



「ですが、それは間違いだと気付きました。

美しいとは単純に視線を奪われるものです。もっと見ていたいと願う、罪のない好奇心。」



「だから綺麗って言われてもムカつかなくなったっていうこと?」


「いいえ」と言った真嶋がベッドに手をつく。


「透子は美しい。あなたがそれを知ろうともしないのが腹立たしいんです。」
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