今夜、シンデレラを奪いに
「っ、何を言ってるの………」


真嶋が?私を?美しい?どれかが間違いじゃないと日本語として成立しない。


酔っているせいで思考がまとまらないのか、真嶋が近くにいるのも現実感が無かった。

真嶋の顔を天使みたいだと思っていたけどやっぱり違う。例えるなら悪魔の方だ。だって人を魅了して壊してしまいそうなほど綺麗だから。


現に私は睫毛が触れそうな距離になっても、真嶋の怒った顔に見惚れていた。



「透子」


普段は全く下の名前で呼んだりしないくせに、どうして。


左手の上に真嶋の手が重なった。その手がぐっと押さえ込まれて、少しだけ真嶋の重さを感じる。


少しだけベッドがきしんだのは、真嶋の膝が乗ったからだ。




あれ?


いつの間にこんなことになってる?




「…………!」



唇が、溶けるような苦しい熱に触れて、びっくりして顔をそむける。



「あなたは、自分のような女がキスを断ったら相手に悪いと思うのでしょう?その卑屈さを発揮するのは今ですよ。」



「なっ!

キス?何で?」


「あなたを許せないからです」



私にキス?



許せないから?



さっきから真嶋の言葉もやってることも変で、意味が飲み込めない。


まだ顔が怒っている。左手に加えて右の肩も押さえられて、本格的に身動きができなくなった。



「待っ……」


「待ちません」




もう一度唇が触れた。触れあっただけでわかる、こんなのはダメだ。



まるで魅惑の毒に侵されたような感じがした。一瞬で全身に毒が回ったのか胸が苦しくてしょうがない。



熱くて苦しくて逃げ出したいのに、さっきみたいに顔をそむけられない。それどころか、ますます深みにはまっていく。



「……んっ…………

今の真嶋は絶対に変だって」



「透子のせいです」



「冷静に考えてよ、どうして私たちがキスするの。恋人でもないのに」



「知っています。どうせ俺は透子が望む大人の男ではありません」



また唇が触れあって、三度目ともなると勝手に意識が溶けた。気が緩んだ隙にもっと深く溶かされて、もうこれ以上はダメと思っても逃げられなかった。

頬に手をかけられて、一瞬でも逃げようとするのを許してくれない。
< 72 / 125 >

この作品をシェア

pagetop