今夜、シンデレラを奪いに
「納得できません!」


高柳さんの執務室に押し掛けて、大きなデスクに両手をバンとついて訴えた。それでも高柳さんの表情は小揺るぎもしない。







月曜に出社すると、オフィスの様子がガラッと変わっていた。みんなざわざわと慌てている。そして、いつもの半分くらいしか人がいない。


「矢野ちゃん、社内通達見て!早く!」


と斉藤さんに言われてグループウェアにアクセスすると、「企画営業課の再編について」というレポートが高柳さんから通知されている。



「代理店契約における不正な価額操作の発覚により、下記社員の処罰を………

ってこれ本当ですか!?10人以上いますよ!次長の名前も書いてある」


「ここに書いてある社員はまだ良いんだよ。問題は書いてないのに今日ここにいないヤツらだ。

ウチの場合、懲戒解雇されると社員名簿から消されて名前すら上がらなくなる。

首謀者級はみんな解雇されたらしい。」


遠くに見える部長の席が空になってる。今日は休暇でもないし今は会議も入ってないということは、まさか。


「そう、部長もその一人。許せないよな………不正なんて」


悔やんでいる斉藤さんの言葉を聞きながら、周りを見渡してみる。


こんな時なのに真嶋がまだ会社に来てない。休みなのかなとスケジュールを調べたら、真嶋のページにアクセスできなくなっていた。まさかと思って社員名簿を調べると、真嶋の名前は載ってない。



「え?…………真嶋?」


真嶋がこんなバカなことに関わるわけがない。


「あいつも懲戒解雇の一人だな。面白いヤツだと思ってたのに………あの若さで、何をやってんだか」


「違います!真嶋だけは絶対に違います!

どんな事情があっても、あいつが不正に荷担するわけないですよ!!」


「でもさ矢野ちゃん。あいつは少なくとも自分がいなくなることが分かってたみたいだぜ?

じゃないと、こういう置き土産はしないだろ」



斉藤さんが指差した先にあったのが、真嶋がコンビニで買い占めたキャベッツ小太郎だった。付箋に「どうぞ」と書いてある。


「嘘だ」


…………そういえば先週末に高柳さんと真嶋が話をしていた。


あの時に真嶋への処分が決められていたんだとしたら、高柳さんの調査ミスに違いない。いてもたってもいられなくて、すぐに高柳さんの執務室に押し掛けた。
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