今夜、シンデレラを奪いに
「矢野さんが納得するかどうかは問題ではない。これは会社の決定だ。」


高柳さんは淡々とした態度で、真嶋のことは何も教えてくれない。


「30分後には企画営業課向けに内部事情を説明する。まずは今回の全容を理解しなさい。」



そのようにして高柳さんは、処罰された人を除いた企画営業課に説明会を開いた。


「トパーズロジスティクスとの契約が今回の不正発覚のきっかけとなった。

契約を取ったのは矢野さんだね。契約時の仕切りはいくらだ?」


「4.7です」


「そうだ、しかし実際には『広告費』『管理費』『サポート費』としてさらに2割差し引かれている。

その結果、実質的にトパーズロジスティクスからは定価の2.7割の価格でソフトウェアを購入することになる」


「そんな……いくらなんでも安過ぎです!先方だって承諾しないはずです!」



「それが、するんだよ。

エヴァーグリーンの社名は良くも悪くも強い。価格交渉では逆らえない中小企業も多い。」


高柳さんの説明に「卑怯だ」と呟く声が聞こえる。


「これまで企画営業課の顧客は格好の餌食だった。

聞き覚えのある会社は多いだろう、ラグナソフトウェア、株式会社ストライプテック、エンデバーコミュニケーション…………」


高柳さんが挙げた名前に、鴻上さんと一緒に契約をとった会社が幾つも含まれていた。



「この結果を重く見てこの部署は解散する。今後の配属については追って通知するが希望があれば個別面談で報告を」


「そんなんで納得なんか…………できるかよ!」


「不正が起きてしまった以上、全ての社員が納得できる対応など存在しない。

会社として必要な対処だ。理解してほしい」

高柳さんは、静かな瞳で室内を見渡した。
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