今夜、シンデレラを奪いに
ペンライトの明かりを頼りに探し物をしている背中が、微かに闇に浮かび上がる。
気づかれないように靴を脱いでそっと近づいたけれど、あと5メートル以上の距離を残して、気配を察知されてライトの光を消されてしまった。
こうなると何も見えない真っ暗闇だ。窓のブラインドまで下りているから外の明かりすら入ってこない。
その人は慌てて立ち去ろうとしているのか、幾分大きな物音が聞こえてくる。
「逃げないで!まだここにいて。
あなたが誰か詮索したりしないから。ただ、お礼がしたいだけだから。」
しんと音が吸い込まれるような静寂。
返事は無くても、ここに居てくれるならそれでいい。
「あなたが調べてくれたから、私たちはもう間違わなくて済むようになったんでしょう?
卑怯な不正を、あなたが終わらせてくれたんでしょう?」
やっぱり、返事はない。
「私は企画営業課の仕事が大好きだった。
だけど、知らない間に誰かを不幸にするような仕事なら、きっぱり止められて良かったと思ってる。
私だけじゃなくて、企画営業課の人はみんなそう思ってるはず。
不正を突き止めてくれて、ありがとう。」
一歩近づくと、同じだけ離れる足音がする。
「これ、あなたに返さなきゃ。だからまだそこに居て」
何も見えない中、デスクに手を触れながら少しずつ足を進める。机の上に乗った何かを落とす音がしたけど、気にせず進んだ。
距離感がわからなくて、歩いている途中でその人にぶつかってしまう。でも、その人は逃げずに待っていてくれた。
強引に手を取って広げて、片方だけのカフリンクスを乗せる。
「ありがとう。どう言っていいかわからないくらい感謝してる。
だから、もう一人だけで背負おうとしないで。あなたの仕事を私に分けて。
あなたの探し物は、きっと私が持ってる。」
ここからは度胸が必要だ。これまで、私の人生でこんなに勇気が必要な瞬間は無かったと思う。
途中で挫けないようにひと思いにその人の腕を掴む。
肩や首筋にも触れて、見えてはいないけど顔の位置は大体わかった。こんな暑いのにネクタイまでして仕事してる奴なんか、この会社で一人しか知らない。
「………っ」
頭の後ろに手を伸ばして、私は不意打ちのようにキスをした。
気づかれないように靴を脱いでそっと近づいたけれど、あと5メートル以上の距離を残して、気配を察知されてライトの光を消されてしまった。
こうなると何も見えない真っ暗闇だ。窓のブラインドまで下りているから外の明かりすら入ってこない。
その人は慌てて立ち去ろうとしているのか、幾分大きな物音が聞こえてくる。
「逃げないで!まだここにいて。
あなたが誰か詮索したりしないから。ただ、お礼がしたいだけだから。」
しんと音が吸い込まれるような静寂。
返事は無くても、ここに居てくれるならそれでいい。
「あなたが調べてくれたから、私たちはもう間違わなくて済むようになったんでしょう?
卑怯な不正を、あなたが終わらせてくれたんでしょう?」
やっぱり、返事はない。
「私は企画営業課の仕事が大好きだった。
だけど、知らない間に誰かを不幸にするような仕事なら、きっぱり止められて良かったと思ってる。
私だけじゃなくて、企画営業課の人はみんなそう思ってるはず。
不正を突き止めてくれて、ありがとう。」
一歩近づくと、同じだけ離れる足音がする。
「これ、あなたに返さなきゃ。だからまだそこに居て」
何も見えない中、デスクに手を触れながら少しずつ足を進める。机の上に乗った何かを落とす音がしたけど、気にせず進んだ。
距離感がわからなくて、歩いている途中でその人にぶつかってしまう。でも、その人は逃げずに待っていてくれた。
強引に手を取って広げて、片方だけのカフリンクスを乗せる。
「ありがとう。どう言っていいかわからないくらい感謝してる。
だから、もう一人だけで背負おうとしないで。あなたの仕事を私に分けて。
あなたの探し物は、きっと私が持ってる。」
ここからは度胸が必要だ。これまで、私の人生でこんなに勇気が必要な瞬間は無かったと思う。
途中で挫けないようにひと思いにその人の腕を掴む。
肩や首筋にも触れて、見えてはいないけど顔の位置は大体わかった。こんな暑いのにネクタイまでして仕事してる奴なんか、この会社で一人しか知らない。
「………っ」
頭の後ろに手を伸ばして、私は不意打ちのようにキスをした。