今夜、シンデレラを奪いに
こっちに来て、と真嶋をキャビネットに案内する。


「部長のノートパソコンは少し前に壊れたから、古いのはここね。それから契約書類の棚から抜いてきた書類はこれ。こっちは鍵のついた引き出しにあったハードディスク………」


「何をやってるんですか!勝手な資料の持ち出しなど危険です」


「真嶋が一人で仕事を抱えてるなら、手助けするのは当然でしょ。

真嶋こそ、一人で全部なんとかしようとするのはもう止めて。抱えてる荷物は私に半分預けるの。

頼りないかもしれないけど、あなたの上司は私なんだから。」


強く訴えて腕を掴む。だけど真嶋は、聞き分けのない子供を見るような静かな視線を返すだけだった。


「あなたの部下として過ごす時間は終わりました。もう余計な心配はいりません。

短い間ですが、楽しかったですよ。」


「やめてよ、別れの挨拶みたいなこと言わないで!」


私が声を荒らげても、淡々とした様子でキャビネットから必要な資料をケースにしまっている。


「矢野さんの取った契約のお陰で調査は楽に進みました。部下の顔をして、俺は好きなだけあなたを利用していたんですよ。そんな男のことをこれ以上気にする必要はありません。

全部忘れてください。」


「嫌だ!そんなの無理!!

あんた、自分がどれだけ存在感あるか知らないの?生意気で口うるさくて、上から目線で、意地悪で、時々変に優しくて!

そういうの全部、私に刻まれてるの。今さら忘れるとかあり得ないんだから。」


真嶋は私の手からライトを取り上げる。明かりを消して、辺りはまた真っ暗闇に包まれた。


「透子は光の当たる場所を真っ直ぐに歩く人です。暗闇の記憶など、全て捨ててください。」


真嶋が私をここに置いていきそうな気がして、腕を掴む力を強めた。でも逆にはっとするほどの強い力で押さえられて、両手の自由を奪われる。
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