今夜、シンデレラを奪いに
「一人でどっかに行く気なんでしょ!そんなの許さないからね!」


「ふふっ、相変わらず勇ましいですね。」


否定しないその言葉に底知れない不安を感じる。せっかく見つけたのにまたいなくなるなんて嫌だ。


手はどんなに力を込めてもびくともしない。手が動かないので逃げないように真嶋の脚に膝を絡める。



「………そういうふるまいは、女性としていかがなものかと。」


「慎みを持てって言うんでしょ?

下品でけっこう、オッサン扱いだってもう慣れた。どう思われようが絶対逃がしたりしないんだから。」


暗闇の中、ため息のような微かな笑い声が聞こえる。頬に真嶋の髪が掠めるように触れた。


「こういうのは色仕掛けと言うんです。これ以上火を点けるような真似は止めてください。」


「え……」


真嶋は私の両手を後ろに回して、ひとつにまとめて持った。空いた片方の手で絡めた膝を離そうとする。


「やだっ、置いてかないで!」


真嶋の手が膝の裏に触れた時、体に火花が散ったような気がして小さく肩が跳ねる、力が抜けてバランスを崩しそうになった。


「…………っ」


シュ、と小さな衣擦れの音がした後、唇に柔らかな感触が走る。


また不意打ちのように唇が重なる。もう三度目だ。私たちはお互いに相手の了承を取ろうともしない。


軽く唇を重ねられた後は、蕩けるような熱さが全身の力を奪っていく。深みに落ちていくにつれて胸の奥が痛んだ。



「っ…………

忘れろって言うなら、こんなキスしないでよ。」


「透子のせいだから、謝らない」


謝る代わりなのか、うっとりするような優しい手つきで髪を撫でられる。


「………お願いだから行かないで。」



真嶋は何も言ってくれない。力ずくではかなわないし、どれだけわめいても真嶋の気持ちを変えられないと思うと涙が溢れてくる。


「泣くな。

悲しむほどの事じゃない」
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