今夜、シンデレラを奪いに
頬に伝う涙を指先で払われる。

真嶋はいつの間にか私の手を離していた。髪を撫で、そっと頬に触れている。それなのに私の両手は固定されたまま少しも動かせなかった。これじゃ真嶋をひき止めることもできない。



「真嶋の前なら好きに泣いてもいいって、前に言ってたくせに……っ。せめて泣き止ませるくらいしてよ。」


「上司の顔をやめると、透子は案外甘えん坊ですね」


真嶋はくすっと笑って、もう一度キスをする。永遠のような一瞬の後、体を包んでいた熱が離れた。


「どうしていなくなるの?今までみたいにはいられないの?」


「正体を偽っていた者が、化けの皮が剥がれる前に消えたいと願うのは、自然な成り行きじゃないでしょうか。」


そのまま静かに足音が遠ざかり、縛られた手首が自由になったのはすっかり気配が消えた後だった。手を縛っていたのは真嶋のネクタイだ。私はそれを握りしめて、ただずっと泣いていた。
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