今夜、シンデレラを奪いに
「それは、俺を脅してるつもりか?」


真っ直ぐに見返してくる高柳さんに強く頷いたら、「面白い」と口元だけで笑われた。


この人とまともにやり合ったって絶対に勝ち目はないだろう。今だって私が持ってる最大のカードを切ったのに、少しも動揺している様子がない。視線を合わせただけで、逆に私の足が震えてしまっている。



「しょ、証拠のコピーだって保管してるんですよ。話を聞いてくれないのなら………」


「君の想像通りだよ。」



高柳さんがあっさりと認めてしまうので拍子抜けする。隠そうとするなら、もっといっぱい詰め寄るつもりだったのに。



「企業のトップに登りつめる者は総じて用心深い。決して自分の手は汚さず、トカゲの尻尾を切るように捨て駒を用意するものだ。

今回の処罰対象者は皆、所詮は捨て駒の奴らだよ。不正の中心はエヴァーグリーンですらない。オーク財閥の幹部。当社内で処罰できる範囲を軽く飛び越えてる。」



「そこまで分かっているのに、どうして公表しないんですかっ!?」


「何故かわかるか?」



聞き返されるとは思ってなかった。


予想では『会社にとって不都合だから』とか『不正したのがとても偉い立場の人だから庇ってる』とか、ズルい理由だと思っていて………


だから、計画ではこの件を黙っていることを条件にして交渉しようとしていたのに。


そんな私の浅はかさを見透かすように、高柳さんはただ静かな眼差しを向けている。


「君が回答に辿り着けたら要求を聞こう。さあ、何故だと思う?」


今、私は試されている。ここで間違ったら道が絶たれてしまうに違いない。


じわじわと胸を締め付ける緊張感を追い払うようにゆっくりと呼吸を整えて、三日前に強引にキスをしたあの瞬間のことを思い出した。



どんな場面だって、あの時の勇気に比べればなんてことはない。大好きな人に拒絶されるかもしれない怖さに比べらたら、今なんて………
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