今夜、シンデレラを奪いに
「ああ、そういうコトか。矢野さんの意見には俺も概ね同意だ。でもなぁ………」


高柳さんは思案するように眉をしかめた。煮えきらないリアクションがもどかしくて、言葉を重ねる。


「しかも、まるで処罰者同然のやり方で会社の籍を抜くなんて思いやりが無さすぎませんか?

真嶋は、不祥事の捜査以外にもいろんな仕事ができるはずです。会社の都合だってあるでしょうけど、もっと日の当たる場所に連れていってあげたらどうなんですか!」


つい言葉に熱が入る。そのせいか、高柳さんは小さく首を傾げてごくシンプルな疑問を口にした。


「彼は君の恋人か?」


「ええと、あの、」


…………違います。


ただの部下です。


だけど、部下という立場すら実際はまやかしで…………。それなら、私は真嶋を何と説明したらいいんだろう?


片想いの相手というのもちょっと違う。


「真嶋は、シンデレラっていうか」


思わず口をついて出た言葉に、訝るような視線を向けられる。


「化けの皮が剥がれる前に消えたいとか勝手なこと言って、自分の気持ちが恋かどうかも分からないうちに、いなくなってしまって。

あの童話の王子さまはこんな理不尽な気持ちになったのかなぁって………」


素直に打ち明けると怪訝な表情を解いてくれたものの「やっと腑に落ちた」と笑われてしまった。


「君は随分とヒロイックな王子だな。

禁止エリアへの不法侵入に加えて、会社の内情を調べ上げて脅しまでやってのけるんだから。」


高柳さんは口の端を吊り上げて笑っている。怒ってるのか褒められてるのか全く分からないリアクションは、ただただ怖い。


「すみません、すみません。本当に馬鹿なことばかりしてすみませんでした!!

言い訳させて頂くとですねっ。

真嶋のこと、ずっと部下だと思って接してきたんですけど、振り返ってみれば私が上司として彼にしてあげられた事は何もなくて、逆に私が助けられてばかりで………。

だから今になってでも、自分にできることは何でもしたいって思っていて。恋愛感情は抜きにしても、真嶋のためにできることは何でもするつもりです!!」



「そう…………何でも、か。

聞いたぞ。」


「え?」


高柳さんが悪だくみするような表情を浮かべて「たまには、イチかバチかの仕事も悪くないな」と呟いた。さっきから、笑っているのに剣呑な空気しか出てない。
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