今夜、シンデレラを奪いに
「俺も、彼は表舞台に立つべきだと思っている。俺が言っても聞かないから、代わりに矢野さんが伝えてくれ。

本当に彼を日の当たる場所に連れてきてくれるのなら、表彰ものだよ。」


「………どういう事ですか?真嶋の意思で、今はこんな変な働き方をしてるんですか?」


「その辺は考えなくていい。それより、君の願いを実現するにはリスクがあることを考慮した方がいいだろう。

悪いが失敗すれば今後のエヴァー社員としての身分は保証できない。」


「ええぇ!?その脅しはとても怖いんですが………」


予想もしない方向に話が転がった。平然と話してるわりに、とんでもないものを投げ込んでくる人だ。


「脅しで済むなら良いんだが、実はそうでもない。

こんなことが免罪符になるとは思わないが、クビになるときは多分俺も同じだからそれで溜飲を下げてくれ。」


「もっと怖いですって!

高柳さんが辞めるなんて会社の損失です!!どうしてそんな話に」


私が慌てても高柳さんはどこ吹く風といった様子で笑っている。


「矢野さん、物事には勝負所があるんだ。自分を賭ける価値があるかどうかは自分で見極めろ。

君がやるなら俺は乗るけど、さてどうする?」



その言葉に、見えないドアが開く音が聞こえた。世界の片隅の真っ暗闇に続くドア。その先は想像よりもはるかに怖い行先になるらしい。


だけどもちろん、目の前に道が開けたのなら尻込みしてる場合じゃない。


「高柳さんがそれでいいなら、私のクビなんて軽いものはいくらでも賭けますよ!」



高柳さんは「いい返事だ」と満足そうに表情を緩める。


まさか高柳さんの進退にまで影響する事態になるとは思わなかったから心臓がバクバクしてしょうがないんだけど、当の高柳さんはこの状況を楽しんでいるように見える。


「今回の不祥事について、最後の詰めがまだ残ってるんだ。君はその現場に立ち会うといい。

チャンスは一度きりだ。」


日時と場所を記した紙を手渡される。緊張で書類を受けとる手が震えた。


「成功報酬は、真嶋君と同じ部署への配属だな。

ガラスの靴を忘れるなよ、王子様。」


「はい…………!」


高柳さんは相変わらず勝ち気な微笑みを浮かべている。その強気な様子に背中を押されたような気がして、深く頭を下げて執務室を飛び出した。
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