今夜、シンデレラを奪いに
「…………っ」


意地の悪いことばかり言うかと思っていたのに、こんなの不意打ちだ。


優しいことを言うのは止めてほしい。傷付いてもいいと許されたような気がして、喉の奥が痛くなる。


「勝手に憧れて、勝手に失恋しただけなんです。別に大したことじゃ……」


「そうやって誤魔化している限り、いつまでも引きずるだけだ」


ますます柔らかくなる声のトーンに、大人の顔を保つのが難しくなってくる。


「どうしてそんなことを心配してくれるんですか。赤の他人の恋愛なんか」


「心配はしてない。ただの暇潰し。

朝四時までやることがないから、あなたの失恋の話を聞いてみたいだけ。」



「…………」


優しいと思ったのが間違いだった。


もう色々投げ遣りな気持ちになって、さっき起きたことを一方的に喋る。オチのないつまらない話だけど知ったことか。



「……鴻上さん、これまでだって彼女いたり別れたりしてたけど、あんな笑顔は初めて見たんです。

迷子みたいな顔っていうか、見てるだけで苦しくなるような。」


「彼女がいても別れても、ずっと黙って好きでいたと?相手に好きとも言わずに」


「一緒に仕事してたんですよ!言えるわけないじゃないですか!

それに、これまでの鴻上さんは恋愛にドライっていうか、仕事忙しくなるとよく彼女と別れてたから。」


「テキトーに女をすげ替える男のどこがいいんだ?女遊びの激しい男が好みというのは……」


「違います!!鴻上さんはお日さまみたいな人なんです!


仕事で私が足を引っ張っても『新人はミスするのも仕事のうち』って優しくフォローしてくれて。

助けてくれたときには『そのために先輩がいるんだから』ってお礼も言わせてくれないような人で。

みんながピリピリしてるときも、鴻上さんがいるとぱっと明るくなって、笑った顔が意外と幼くて可愛くて…………


いつのまにか、鴻上さんに認めて貰える仕事をするのが目標になって。


とにかく、特別で。好きな、大好きな人でっ…………」


気がついたら涙が溢れていた。人前で泣くのなんていつ以来だろう?


真っ暗なら顔がぐちゃぐちゃになろうが気にしなくていい。それだけは助かった。


「鴻上さんの、特別に、なりたかった

私じゃ無理なんだってわかったら、余計に好きだって気がついちゃったんですっ…………。」


嗚咽を噛み殺してたら、頭にふわっとした感触があたった。
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