今夜、シンデレラを奪いに
だけど彼女の選んでくれたドレスは肩も背中も全開なセクシー系で、とても着れる気がしない。

それ以前に私ホステスさんじゃないので…………と説明しようとしたら近くで和服の女性が話している声がする。


「……VIPルームはエヴァーグリーンの常連さんよ。今日も高いお酒をいっぱい頼んで貰わないとね。」



そっか、そういうことか。

教えて貰った場所はここなんだから、当然お客さんとして真嶋たちが来るんだ。それならホステスさんの方が近付きやすくて好都合かもしれない。



それと、真嶋がこういうお店に出入りしているということがとても意外だった。認めてしまうとかなりショックを受けている。もしかして夜な夜な綺麗なお姉さんにお酌なんかされてるんだろうか。


これでもかというほど胸元を強調するドレスで、隣に座れば太股の半分以上見えるようなスカートで。


あの顔だから女の子にもウケが良いに違いない。普段の様子からは想像つかないけど、真嶋もデレデレしたりするのかな…………。


「もうっ。若いのにオッサンみたい!」


ムカムカした勢いでドレスを着込み、ユリナちゃんのアドバイス通りにライターを胸元に挟む。

腹が立ったせいか恥ずかしさは何処かに飛んでいった。「まりあ」という源氏名まで付けて、見よう見まねで接客した。


そのうちにVIPルームにお客さんが二人入っていったのが見えたので、頼み込んで私も接客に混ぜて貰う。そんな自分の迂闊さを呪ったのは、席に着いた後だった。


「今後のポストについて相談を……」


と語っているのは、このまえ処分されたばかりの部長だ。


…………まずい。部長は当然、私の顔を知ってる。パソコンのセットアップだって頼まれたくらいだ。ウィッグとカラコンでギャル風の見た目になってるとはいえ、普通に話したらすぐにバレてしまうだろう。


「キミ、新人の娘?」と聞いてくる部長に、やけになってテンションを上げて答える。


「ま、まりあっていうの!おじさんデキル男って感じでめっちゃタイプ♪ダンディなヒトって素敵ぃー」


自分でもさすがに苦しいなと思ったけど、バレるよりはマシと思ってクネクネと体を揺らして答える。


すると、普段の不機嫌そうな顔からは想像つかないくらいのデレッとした笑顔になった。私だとバレなかったみたいでほっと胸を撫で下ろす。


「まりあちゃんっていうんだ。あんまり褒めるとおじさん勘違いしちゃうゾ!」



…………部長、キモいっす。


という声はぐぐっと飲み込んで「勘違いじゃないもぉーん」と返す。

気に食わないと思われたら他のホステスと交代になってこの部屋を追い出されてしまので、私だって必死だ。



部長の他にはもう一人60歳前くらいの男性がいて、会話の様子からは部長より立場が上のように見えた。部長はヘコヘコとその人に気を使っている。


「それにしても、右も左も分からんような若造が経営に余計な口出しをしやがって。

真嶋家の小倅は、このままのさばらせておく訳にはいかないな」


その人が憎々しげに「真嶋」と言うのを聞いて、ついグラスを倒した。
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