今夜、シンデレラを奪いに
財閥?



パズルのピースが一部分だけめくれた。前に真嶋が「うちは分家なので気楽なものですよ」と言ってたのを思い出す。


エヴァーグリーンはオーク財閥の関連企業で、オーク財閥といえば資産がどこかの国の国家予算に並ぶようなお金持ちだ。確か財閥の中心は商社だと聞いたことがある。


これまでは想像もしなかったけど……真嶋はオーク財閥の人なの?


「しかし今日は何故あれをここに?女なんか掃いて捨てる程いる奴だろうに。あれに色香の類いは効かんよ」


「女なんか掃いて捨てる程いる」という言葉が頭の中に反響して、思考を遮られる。


まぁ、真嶋が規格外にモテるのは分かる。でも彼女とかいる感じには見えなかったんだけど………特定の一人がいないだけで遊び相手ならたくさんいるのかな。私にさえ平気でキスできるくらいだし…………。



つい集中しなきゃいけない方向と全然別の方に気が向いてしまい、もう一度気を引き締める。

お酒を勧めながら部長を見上げると、異様な様子にゾクっと正体不明の悪寒がした。瞳孔が開いていて、とてもマトモな表情には見えない。


「ね、ネクタイ曲がってるよ?まりあが直してあげる」


「上手にできるねぇ。まりあちゃんはこういうの誰に習ってきたのかな」


「えぇー?もちろんパパだよ」


スキンシップを装いながら、部長のスーツにスカートの中から取り出した道具を仕込んだ。

超小型集音マイク。今までは存在すら知らなかった、まるで探偵みたいな物騒な道具だ。私がエグゼクティブフロアに入った時に高柳さんに所持を確認されたのもこれのことだった。


高柳さんはこの道具の使い方を説明した後で言っていた。


「真嶋君がただひとつだけ俺に頼んだのは、君を守るようにということだけだ。遠ざけてほしい、という言い方だったけどね。

彼と彼の属する世界から、お節介でお人好しの上司を遠ざけるように、と。

俺にはそれが最善とは思えない。だからこそ君を試し、こうして彼との約束を反故にしている。」


その言葉を思い出しながら目の前の二人、おそらく真嶋の敵の姿を目に焼き付ける。


ワイヤレスのイヤホンを耳につけると、早速、耳元にさっきまでは聞こえなかった声が届いてきた。



「…………思い上がったツケは、身をもって知ってもらいましょう。速効性の…………」


「だが、眠らせたところでどうする?あれは周到な男だぞ、証拠品を本部に送られていたら…………」


「彼も…………の汚名は着れないでしょう。そういう商売の女を用意すれば容易いことです。

襲われたと主張され、証拠が検出されれば無罪証明などできません。そのネタだけでただの傀儡に成り下がりますよ。」
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