今夜、シンデレラを奪いに
膝の上に落ちた名刺を拾って何気なく眺める、触ってみるとやっぱり普通の紙製で、私が使っているのと同じ、見慣れた会社のロゴが入っている。




エヴァーグリーンインフォテクノロジー株式会社
取締役 副社長

真嶋 夏雪
Natsuyuki Majima




突っ込み所が大きすぎて思考が停止した。何度瞬きしても書いてある内容は同じ。見間違いではないらしい。


名刺に気を取られている間にオジサン二人は険悪さを増して、「真嶋さんの理想にかなう経営などしていたら、エヴァーグリーンはすぐに傾きますよ。」と詰め寄っている。


だけど真嶋はウルサイ羽虫を見るような冷淡な視線を向けるだけだ。


「経営よりも今後の身の振り方を心配するんだな。」


「真嶋さん、私が何の準備もせずにここに来ているとお思いですか?私なりに二重、三重の用心は重ねています。

下手に出ている間に譲歩していただいた方が賢明ですよ。」


「先代当主とのパイプを頼ろうとしているなら無駄だぞ?お前の人脈は既に押さえている。」



あっさりと真嶋が返すのでオジサンはギリギリと歯噛みし、やがて項垂れる。先代当主っていうのは財閥の偉い人のことだろうか。


「分かりましたよ。真嶋さんとは徹底的に意見が合わないようだ。

せいぜい会社を潰さぬよう、はなむけに酒でも贈らせてください。酒宴が終われば処分でも何でも受け入れますよ。

苦労して取り寄せたグラン・クリュの上物です。本当は祝酒としたかったのですが、残念です。」


オジサンが合図すると高そうなワインが運ばれてきた。さっきの会話から考えると、このお酒には睡眠薬が入ってるに違いない。


「かつてはあなたのお母様と二人きりで、このワインを味わったこともあるんですよ」


気持ちの悪い昔話をしながら真嶋にワインを勧めている。さてどうやって邪魔をしたらいいのかな。


思いついたのは絶対に実行したくない方法で、こんな案しか思い付けない自分に軽く自己嫌悪する。


だけどこんなときに限ってソファの下にうってつけのブツまで見つけてしまった。…………もうやるしかない。
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