今夜、シンデレラを奪いに
「ぎゃぁああーっ ゴキ○リッ!!」


全身に鳥肌を立てながらソファの下から拾ったソレを、慌てたフリをして真嶋のグラスに思いきり投げ入れる。真嶋が私を見て少しの間静止し、よく知っている呆れ顔になった。



何やってんですか、どこまで馬鹿なんですか



そういう声が聞こえてきそうな顔。だから大丈夫、真嶋は私だと気付いた筈だ。口パクで「飲・む・な」と伝えておく。



「ごめんねぇーー!まりあ虫さんにびっくりしちゃって!!これじゃ美味しいワインが台無し。

このグラス下げてくるねっ」



これ絶対、後で馬鹿にされるよなぁ……。

真嶋の前でまりあのキャラを続けるのはものすごく抵抗がある。こんなことならキャラをもう少し考えておけばよかった。



でも、………これで真嶋が眠らされるのは防げたハズ。



いそいそとグラスを下げてお手洗いで手を洗う。ゴキ○リを素手で掴んだのなんて初めてだ。嫌な感触が残っているので、念には念を入れてきっちり洗った。



大きなため息をつくと視界に黒い影が横切った。


「痛っ」


恐ろしい力で腕を掴まれる。知らない男の人。よく見るとさっきワインを運んできたボーイの人だ。その人は無表情のまま、腕が折れそうなほど容赦の無い力で締め上げる。



「…………っ痛!何なのっ!?」



抵抗したら乱暴に髪を捕まれた。巻き髪のウィッグがとれて、乱れた髪が顔にかかる。



「もう少し見た目にインパクトが要るか」



ドレスのリボンがほどかれて背中にゾッとするような風が通った。


「…………っ!」


怖い


歯の根が合わなくなりガタガタと震える。



引きずられるように戻ったVIPルームの中にユリナちゃんの姿はもう無かった。羽交い締めにされたまま動けない私を見るなり、弾かれたように真嶋が席から立ち上がる。



「真嶋さん、止まりなさい。これは警告です。」



そのオジサン…………いや、もうクソジジイと呼んでやるけどその人はニタリと笑みを浮かべた。



「この女は真嶋さんの協力者だったんですね、あなたにしては随分と間抜けを用意したものです。」


「ま、まりあはここで働いてるフツーの女の子だよ…………」


「黙りなさい、お嬢さん。君の腕を見てごらん?」
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