今夜、シンデレラを奪いに
「あの女が大事なら、生涯私に仕えなさい。次の当主になるのは私だ。お前が私のために働けば簡単な事だろう?

手始めに現当主を引きずり下ろすところからやってみろ。」


「策略しか能が無い奴に財閥の運営が務まるとでも?せいぜい身の丈に合った野望にしておけ。」


真嶋が怒りの滲んだ低い声を出すと、ジジイは容赦なく顔を殴った。


「止めて!もう止めてよ!!」


私が言ったところで止めるわけもないと分かっていても叫ばずにはいられない。真嶋の髪が乱れて口元に血が滲んでる。それがポタリと床に落ちた。



「まだ分からんのか?お前は私に従うしかないんだよ。私の一派に属するものへ適切なポストを用意することなど、お前にかかれば簡単だろう?

今すぐ恭順の意を示せ。土下座して靴を舐め、はしたなく許しを乞えば許してやるよ。」


真嶋はゆっくりとした動作で、まるで騎士が主に頭を垂れるように頭を床に近づける。前髪が落ちて顔にかかった。靴に鼻先が触れそうな距離になると、ジジイは興奮が抑えきれないのか薄汚い声で笑っている。



止めて。



そんなこと許さない。


その唇でキスしてくれたじゃない。もんじゃ焼きとか、カップうどんとか、他愛ない美味しいものを一緒に食べた。豪華なディナーも、小日向さんが作ってくれた美味しいご飯も食べた。


その唇はそういうことのためにあるんだから。




「もう良いよ、止めて真嶋…………

高飛車なあんたが人に頭を下げるところなんか見たくない。カッコ悪い所見るくらいなら死んだ方がマシ。

廃人にでも何でもしてくれてかまわないから、今すぐ馬鹿なことは止めなさい。

その注射、いいからさっさと射しなさいよ!」


真嶋がこちらを振り替える。気のせいじゃないなら「黙って」と言いかけていた。


「ふざけんな、黙るもんか。もう最後かも知れないなら本音を言うくらいいいでしょう?

真嶋のためなら喜んで死んでやるから、だから老害クソジジイなんかに屈するな!

分かった?死ぬかもしれない上司の頼みくらい素直に聞きなさいよ!」
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