morning moonー朝の月ー
「いつ、向こうには帰るの?」

「今日の最終の飛行機で帰ろうと思ったが、気が変わった」

 ちょっとごめん、と言って直人が席を離れた。

 携帯電話を持って、店の外へと出て行った。

 少しすると戻ってきた。

「飛行機、明日の朝に変更してきた。俺はもう少し話がしたい。駄目かな?」

 断ることができなかった。

 心の底にまだ残っていた思いが、目を覚ましてしまったから。
 


 彼の泊まっている部屋。
 
 強く抱きしめられた腕の中で知った5年分の思い。

 白いシーツに二人くるまれて。

 忘れていなかった、合わせた肌の感触。

 それでも、ひとつ気づいてしまったことがある。

 彼は、直人は最後まで私の名前を呼ばなかった。

 それは私も同じ。

 それぞれに違う誰かがいることを感じていたはず。


 
 直人は今、穏やかな顔で眠っている。

 時計を見ると、朝の5時半を指していた。

 そっとベッドを抜け出し、傍に散らばっていた服を身に着ける。

 レースのカーテン越しに見える外の景色。

 カーテンをめくって外を見ると、白い月が見えていた。
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