優しい音を奏でて…
エレベーターで地下に下りると、1台の車の横に立ち、助手席のドアを開けてくれた。
これ!?
私でも分かるドイツ車。
円いエンブレムは、青と白のツートンカラー。
「どうぞ。」
私は、今日、何度目かの ゆうくんのにっこりを目の当たりにした。
「ありがと。お邪魔します。」
おずおずと助手席に座って、シートベルトを締める。
ゆうくんが運転席に座ると、車はゆっくりと走り出した。
ゆうくんの運転は、静かで安心して乗っていられた。
窓の外を 葉のすっかり落ちた街路樹が流れていく。
気になるのは、信号待ちのたびに向けられるゆうくんの甘い視線。
どうしていいのか、分からなくなる。
それでも、15分程走ると、目的地のお蕎麦屋さんに着いた。
車から降りると、助手席側に回って来たゆうくんにまた手を繋がれた。
「行こ。」
振りほどくのも気が引けて、そのまま店に入った。