優しい音を奏でて…
席に案内されて私が座ると、何故かゆうくんは向かいの席ではなく、隣の席に座った。
… 何で?
メニューを広げたゆうくんは、
「奏、何食べる?」
と小首を傾げて、私の顔を覗き込んで来る。
ちっ、近い!!!
今日は、ずっと、ドキドキさせられっぱなし。
ほんとに、ゆうくんは、何を考えてるの!?
「俺、天ぷら蕎麦。奏は?」
「う、うん。じゃあ、私はとろろ蕎麦に
しようかな。」
「おっけ。すみませーん。」
ゆうくんは、手を挙げて店員さんを呼ぶと、
「とろろ蕎麦と天ぷら蕎麦ください。」
注文を終えて、メニューを片付けると、ゆうくんはやっぱり半身になって、私を見ている。
「奏、金曜の夜のバイトって、何してるの?」
「えっ?
あぁ。
駅前のホテルの最上階にピアノバーがあるの、
知ってる?」
「あぁ。
前に1回だけ職場の人と行ったことあるよ。」
「そこで、毎週金曜日にピアノ弾かせて
もらってるの。」
「っ!!
言ってくれれば、絶対、聴きに行ったのに。」
ふふっ
ゆうくん、悔しそう。
「そんなに悔しがらなくても…
ふふふっ」
「来週も弾く?」
「うん。
でも、来なくていいよ。」
「何で?
絶対行く!」
「あそこ、安くないし…
ピアノ聴きたいなら、部屋で弾いてあげる
から。」
「っ!!
それって、プライベートコンサート?
それもめっちゃ嬉しい!
でも!!
ピアノバーで弾く奏も見たい!
だから、絶対行く!!」
ふふっ
何だか、子供みたい。
「じゃあ、来てもいいけど、無駄遣い
しないでね。
アルコール1杯で十分だからね。」
そんな話をしてる間に、蕎麦が来た。
「奏、海老天好きだろ?
2本あるから、1本やる。」
そう言ってゆうくんは、私が返事をする前に、私の蕎麦の上に海老天を乗せた。