優しい音を奏でて…
22時。
今度は、最初からゆうくんが聴いてくれてる。
ピアノが心地いい。
音に気持ちを乗せていく。
ゆうくんが好き。
ゆうくんが大好き。
でも言えない。
でも、ゆうくんが好き。
いつもより、音が優しく響いてくる気がする。
ゆうくんは、最後まで聴いてくれていた。
23時。
演奏を終えると、急いで着替えてゆうくんのところへ向かった。
私が隣に座ると、
「何か飲む?」
とゆうくんが聞いた。
「ううん。」
私が首を横に振ると、
「じゃあ、帰ろう。送るよ。」
と席を立った。
私は、控え室から荷物を取って来て、ゆうくんの隣に並んだ。
ゆうくんの右手がスッと伸びて、私の荷物を持ってくれる。
「ありがと。」
ゆうくんは、右手に荷物を持つと、今度は左手をスッと出し、私の右手を握った。
帰りは、ほとんど何も話さなかった。
だけど、心が繋がってる気がした。
思えば、私たちは、ずっとこうだったんじゃない?
何もがんばらなくても、隣にいるのが当たり前で、何も言わなくても、互いの思いはそこにあった。
ホテルからマンションまではほんの10分程の距離。
あっという間に着いてしまう。
私の部屋の前で、荷物を受け取って、ゆうくんを見上げた。
「ありがと。
荷物も。聴きに来てくれたことも。」
「こちらこそ、ありがとう。
素敵な演奏だった。
おやすみ……」
「おやすみなさい。」
私は、部屋に入っても、なかなか寝付けなかった。