優しい音を奏でて…
ゆうくんに手を引かれて、玄関を入る。
「田崎です。」
ゆうくんが名乗ると、
「お待ち申し上げておりました。
こちらへどうぞ。」
と案内される。
私は、ゆうくんに習って用意されたスリッパに履き替えて、仲居さんらしき女性についていった。
通されたのは、8畳程の和室。
真ん中に黒檀の座卓があり、座布団が用意されていた。
「くつろいでお待ちくださいませ。」
と仲居さんが襖を閉める。
ゆうくんが手を離してくれないから、座れない。
「んんーー! 隣が良かったけど、向かい
合わせで用意されちゃってるから、
しょうがないか。」
ゆうくんは、諦めて、手を離して向かい側に座った。
「ここ、外から見ると普通の家みたい
だったね。」
キョロキョロしながら、私が聞くと、
「あぁ、隠れ家みたいで落ち着いてていい
だろ?」
とゆうくんが答える。
「ゆうくん、予約してくれてたの?」
「違うよ。
ここは、おふくろが予約してたんだ。
さっき、電話で、キャンセルが面倒だから、
奏と行ってこいって言ってた。」
と笑った。