優しい音を奏でて…
「ねぇ、ボーン吹いてみてよ。」
「いいけど、防音室じゃないから、ミュート
付けるよ?」
「いいよ。聴きたい。」
ゆうくんが吹いてくれたのは、聖者の行進。
とても楽しそうだった。
「私、ピアノ弾いていい?」
ゆうくんが頷いたのを見て、電子ピアノの電源を入れる。
ゆうくんのトロンボーンのメロディに合わせて、ピアノで伴奏を紡いでいく。
あの頃に戻ったみたい。
楽しい。
ジャズの定番曲を何曲か演奏すると、ゆうくんがボーンを下ろした。
「ちょっと、休憩。
これ以上吹いたら、唇腫れそう。」
「まだまだ、修行が足りないね〜。」
私が茶化すと、
「バイオリンに変えてもいい?」
と聞いてきた。
「いいよ。
バイオリンも聴きたい。」
「でも、やっぱり休憩してから。
奏、お茶飲むだろ?」
そう言って、ゆうくんはキッチンへ行った。
「どうぞ。」
ゆうくんが出してくれた紅茶には、ミルクが添えられていた。
ゆうくんが自分の手に持っているのは、コーヒー。
「……… これも覚えててくれた?」
「………あぁ。」
私は、子供の頃からコーヒーが苦手で、いつもミルクティーを飲んでいた。
もう、胸がいっぱい。