優しい音を奏でて…
・:*:・:・:・:*:・

1月3日(木) 10時半。

─── ピンポーン ♪

私が階段を駆け下りると、玄関から母の声が聞こえた。

「あら、ゆうくん、いらっしゃい。」

「明けましておめでとうございます。
本日は家族水入らずでお過ごしの所へ
お邪魔して、申し訳ありません。」

私が玄関に着くと、ゆうくんが母に挨拶をしている所だった。

「どうぞ、上がって。」

母がスリッパを差し出すと、

「お邪魔します。」

と言って、ゆうくんは私を見て微笑んだ。


リビングに通されたゆうくんは、父の体面(といめん)にあるソファの前に立った。

「皆さまのお口に合うかどうか分かりませんが、
奏さんの好きな水無月堂の苺大福です。
よろしければ、お召し上がりください。」

そう言って、紙袋の中の菓子折りをローテーブルの上に置いたゆうくんは、それはそれは凛々しくて、私が初めて見る姿だった。

無言の父を横目に、空気を読んだ母が、割って入る。

「まあまあ、わざわざありがとう。
せっかくだから、みんなで今いただき
ましょうね。」

そう言って、菓子折りを持って、キッチンへ行った。

立ったままのゆうくんに父がようやく、

「まあ、掛けなさい。」

と声を掛けて、

「はい。失礼します。」

とゆうくんはソファに腰掛けた。


何とも言えない緊張した空気が張り詰める中、律が2階から下りて来た。

「ゆうにぃ、久しぶり〜。」

1人、にこにこしてる律に目を向けたゆうくんは、にっこりと笑って、

「律、久しぶり。結婚するんだって?
おめでとう。」

と言った。

「うん、ありがとう。ゆうにぃは?
もしかして、ねぇちゃんと付き合ってんの?」

ピキーンと空気が凍る音がした…気がする。

お茶と苺大福を持ってきた母が、

「律! 何ですか! 藪から棒に!
とりあえず、お茶でも飲んで、ゆっくりして
いってね。」

と空気を溶かしてくれた。



< 62 / 81 >

この作品をシェア

pagetop