優しい音を奏でて…
「彼、かっこいいね〜。噂の田崎課長でしょ?」
ゆうくんが席を立つと、西田さんがしみじみと言った。
「課長なんですか?」
私が驚いて目を丸くすると、
「そっか。知らないんだ。
ここでは、有名人だよ。
お父さんが現頭取で、彼は若手で1番の
出世頭。
学歴もいいから、単純に親の七光だけじゃ、
ないのかもしれないけど。
加えて、あのルックスだもん。」
「そうなんですね。知りませんでした。」
「彼、きっと、学生の頃からもてたでしょ?」
「…そう…ですね。」
私は、出来るだけ早くこの話題を終わらせたがったが、興味津々の西田さんには気づいてもらえる事はなかった。
「一時期、悪い噂も流れたけど、優良物件で
ある事に変わりないわ。」
「悪い噂?」
「女遊びっていうの?
元々は誰にもなびかないって言われてたのに、
ある日を境に人が変わったみたいに来る者
拒まず…みたいに言われ始めたのよ。
嘘かほんとか知らないけどね。
でも、今はまた、元の堅物に戻っちゃった
みたい。
ただの噂だったのかもね。」
信じられない。
じゃあ、恭子は?
もしかして、恭子と別れて自暴自棄になったのかな?
そんなに恭子が好きだったの?
今はどうしたんだろう?
恭子とヨリが戻って落ち着いた?
それとも、諦めがついた?
初恋の人の悪い噂は、あまり気持ちのいいものじゃなかった。