優しい音を奏でて…
演奏後、着替えてフロアに出る。
ゆうくんの横を通り過ぎる時、耳元で囁いた。
「お願い。信じて待ってて。」
ヒロのテーブルに来ると、私はゆうくんが見えないように背を向けて座った。
ゆうくんに頼らず、甘えず、自分の言葉で終わりにするために。
「こんばんは。」
私が挨拶すると、
「こんばんは。」
ヒロもにっこりと挨拶を返す。
「これは偶然?
それとも…?」
ヒロはまた携帯を見せた。
そこに出ているのは、この店のホームページ。
ヒロがタップすると、ピアニストのスケジュールが表示された。
1月4日 Kanade Tachibana
やっぱりネットは怖い。
「初めてカナのピアノ聴いた。
俺は音楽とかよく分かんないけど、感動した。」
「ありがと。」
「あの後、いろいろ考えたけど、俺はやっぱり
カナを諦められないし、諦めたくない。
遠距離でもいいから、俺が毎週通うから、
やり直そう。
………これ、もう一度、受け取って。」
そう言って、ヒロはポケットから、見覚えのある指輪を取り出した。
「これ………
あの時の。」
「そう。
完治したら、またプロポーズし直そうと
思って、大切に持ってた。
カナ、俺と結婚してください。」