優しい音を奏でて…
控え室から荷物を取ってくると、ゆうくんと手を繋いで歩いた。
「ゆうくん、ありがと。」
ぼそっと私が言うと、ゆうくんは立ち止まった。
「俺こそ、ごめん。勝手に話に割り込んで。
奏は待っててって言ったのに…。」
「そんな事ない。
ゆうくんが言ってくれた事、嬉しかったよ。
ありがとう。」
私がゆうくんを見上げて言うと、ゆうくんは少し照れたように笑った。
そして、またゆっくり歩き出した。
しばらく無言で歩き、マンションの前まで来た時、ゆうくんが口を開いた。
「ほんとは、今日も奏と一緒に過ごしたかった
けど、今日は帰ろう。
今日は奏に優しくできそうにないから。
奏を抱き潰してしまいそうだから。」
ゆうくんの声が苦しそうで私は放っておけなかった。
ゆうくんの首に腕を回すと、
「いいよ。
それでゆうくんの心が落ち着くなら。
優しくなくていいから、ずっと一緒にいて。」
と囁いた。
目を見開いたゆうくんは、
「バカ…」
と言って、私を抱きしめた。
私たちはエレベーターに乗り、5階のボタンだけを押した。