優しい音を奏でて…
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2日後、12月5日(水)


12時40分になり、私たちは、お弁当を持って社員食堂へ向かった。

私たちの職場は、別館3階にあるが、セキュリティの関係で、本館のエレベーターを使わないと入れない。

本館1階からエレベーターで5階に上がり、セキュリティカードで連絡通路のロックを解除して別館に入り、階段で3階まで下りる。

オフィスから社員食堂へ行く時は、階段で5階に上がり、連絡通路を抜けて、エレベーターで9階に上がる。



この日、私たちが、別館から連絡通路を抜けると、5階エレベーター前に ゆうくんがいた。

ゆうくんは、私を見つけると、

「今からお昼?」

と柔らかく微笑んだ。

「そう。」

私が答えると、横から私の袖を引っ張って、高木さんが、

「橘さん、紹介してよ。」

と人のいい笑顔で私とゆうくんを交互に見ている。

「田崎 優音くん。
同級生というか、幼馴染みです。」

「はじめまして。田崎優音です。」

ゆうくんは、私と一緒にいたパートさん達に挨拶してから、私に視線を移すと、

「俺も今からお昼なんだけど、一緒に
食べない?」

と聞いてきた。

どうしよう。
他のパートさん達と一緒に食べた方がいいような気もするし…。

返事に迷っていると、すかさず高木さんが口を挟んだ。

「あら、行って来なさいよ。
どうせ、テーブルは4人掛けだから1人
あふれるんだし、私たちの事は気にしなくて
いいわよ。」

「そうよ、そうよ。
行ってらっしゃい。」

他のパートさんも声を揃えて言ってくれる。

「じゃあ、そうさせていただきます。」

私は、高木さん達にそう言うと、ゆうくんに向き直って微笑んだ。


「ゆうくんも別館にいるの?」

私はエレベーターを待ちながら、ゆうくんが連絡通路横のエレベーターにいた事を不思議に思って尋ねた。

「違うよ。俺は、ここ。」

ゆうくんは、エレベーターの正面にある扉を指差して笑った。

厳重な電子ロックの付いたその扉には、『市場金融部』と書かれたプレートが付いていた。

「へぇ、そうなんだ。私たち、毎日ここ
通るから、また会うかもしれないね。」

私は、こんな偶然にちょっと嬉しくなった。


─── チン!

混雑したエレベーターが到着すると、私たちは、無言でエレベーターに乗り込み、9階へと上がった。



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