ダドリー夫妻の朝と夜
「紅茶は?」

「もう結構ですわ」

「では、蜂蜜は?」

 蜂蜜?

 首を傾げたエミリアの口元へ、アーサーはたっぷりと蜂蜜をつけた己の人差し指を差し出した。

 これを舐めろというのか。

 エミリアは、唖然としてアーサーを見返した。

 相変わらずの鉄面皮からは、何も読み取れない。

 けれど、ついさっきアーサーは、エミリアの指を自らの口に含んでくれたのだ。

「……んっ」

 恐る恐るエミリアが薄く口を開くと、アーサーは指を軽く押しつけた。甘ったるい蜂蜜が溶けて、ゆっくりと口の中に入ってくる。

 引き寄せられるようにエミリアは舌を出し、指先をそっと舐めてみた。

「……あまい」

 蜂蜜の味しかしない。

 思い切って大きく口を開き、指を招き入れる。アーサーは、残りの手でエミリアの頭を撫でてくれた。

 それが嬉しくて、エミリアは段々と大胆になっていく。

 昨夜、アーサーはエミリアの全身にキスしてくれた。キスしていない場所なんてもうないんじゃないかと思うほど全身に。

 驚くべきことに彼は、エミリアの足の指さえ口に含んだのだ。

 もちろん、手の指は全部彼の口に迎え入れられてしまった。”普通、そんなことするの”とエミリアは泣いてしまったが、アーサーは他のことなど考えなくて良いと優しく諭してくれた。これは、アーサーとエミリアの間だけで起こる極めて私的で親密な行為なのだからと。

 そのことを思い出すと、エミリアの体はもちろん、頭の中までぽうっとほてってしまう。
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