ダドリー夫妻の朝と夜
 アーサーは、妻を観察した。

 細い指先でパンを取り、小鳥の餌のように小さくちぎっては、苺のように艷めく唇へと放り込んでいる。アーサーの視線を避けて不自然に横を向いたことで、形の良い耳とピンと張りつめた首筋が露わになった。

 少し赤らんでいる気がした。

「エミリア」

「はい、アーサー様」

 エミリアはバターナイフをサッと手放すと、姿勢を正した。

 従順な妻にとって、アーサーは厳格な士官に見えるのであろう。せっかく妻がわずかばかりの食物を口にしていたというのに、それを邪魔した己をアーサーは悔やんだ。

「もしや、体調が悪いのか」

「いいえ、そんなことはございませんわ」

 エミリアは驚いたようだ。緑の瞳が見開き、うるうると揺れるのがつぶさに見て取れる。

「ならば良い」

 しかし、いつもより少々上気しているように感じる。

 美しい妻の仔細を観察しながらアーサーは、微に入際に入り妻を眺めていられることに気づいた。

 眼鏡をしたままだったのだ。

 妻が来るまでの間に今朝の手紙を確認していたのだが、どうやらそのままであったらしい。

 すみやかに眼鏡を外すと、執事へと渡す。

 アーサーの目に少々ぼんやりと映った妻は、あからさまにホッとしていた。

 なるほど、妻はアーサーの眼鏡姿を気に入らなかったらしい。体裁の良いものでもなし、当然であろう。

 それをアーサーに指摘できず、挙動不審となっていたとなれば、納得もできた。


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