ダドリー夫妻の朝と夜
「旦那様、そろそろお時間でございます」
滅多に時間に遅れないアーサーが家令に急かされたので、エミリアは多忙な夫を朝からわずらわせたことを恥じた。
「ごめんなさい。いってらして」
エミリアはうつむきながらも、アーサーがわずかに身じろぎしたことを感じた。なにかためらっているような雰囲気も。
でも、それはきっと己の願望がもたらした些細な錯覚だったのだろう。
アーサーがエミリアの機嫌を取ろうとするだなんて考えられない。叱責ならありえるかもしれないけれど。
エミリアは両手を固く握りしめ、早口に言った。
「朝から余計なことを申し上げて、申し訳ありませんでした。さあ、どうぞお気をつけていってらっしゃいませ。ここでお見送りとさせていただきますわ」
「……不本意ではない」
「え?」
パッと顔を上げたエミリアは、背の高い夫にじっと見下されていることに気づいた。
「行ってくる」
「……いってらっしゃいませ」
鷹揚にうなずいた夫は、身を翻すと足早に朝食室を後にした。
それを見送ったエミリアは、クラリとよろめいて、ゴブラン織りの美しい椅子にもたれかかる。
「奥様っ!?」
「いいの、大丈夫よ。ちょっと……びっくりしただけだから」
駆けつけた侍女の手を借りて、エミリアはふかふかの椅子に座り込んだ。
──ちょっとどころではない。人生で一番驚いた。
* * *
滅多に時間に遅れないアーサーが家令に急かされたので、エミリアは多忙な夫を朝からわずらわせたことを恥じた。
「ごめんなさい。いってらして」
エミリアはうつむきながらも、アーサーがわずかに身じろぎしたことを感じた。なにかためらっているような雰囲気も。
でも、それはきっと己の願望がもたらした些細な錯覚だったのだろう。
アーサーがエミリアの機嫌を取ろうとするだなんて考えられない。叱責ならありえるかもしれないけれど。
エミリアは両手を固く握りしめ、早口に言った。
「朝から余計なことを申し上げて、申し訳ありませんでした。さあ、どうぞお気をつけていってらっしゃいませ。ここでお見送りとさせていただきますわ」
「……不本意ではない」
「え?」
パッと顔を上げたエミリアは、背の高い夫にじっと見下されていることに気づいた。
「行ってくる」
「……いってらっしゃいませ」
鷹揚にうなずいた夫は、身を翻すと足早に朝食室を後にした。
それを見送ったエミリアは、クラリとよろめいて、ゴブラン織りの美しい椅子にもたれかかる。
「奥様っ!?」
「いいの、大丈夫よ。ちょっと……びっくりしただけだから」
駆けつけた侍女の手を借りて、エミリアはふかふかの椅子に座り込んだ。
──ちょっとどころではない。人生で一番驚いた。
* * *