ダドリー夫妻の朝と夜
 アーサー・ヴィンセント・ダドリーは、妻の声に振り返った。

「アーサー様、まだお仕事をなさっていたの?」

 驚いた彼に、エミリアは恐縮した。

「ごめんなさい、ノックをしたのですが、お気づきにならなかったようなので」

 勝手に彼の部屋まで入って来てしまったのだ。

 しかし、アーサーは気を悪くした様子を見せず、書類を掴んでいた手を妻のために空けた。

「わたしが待ちきれなかった?」

「ふふ。ええ、そうですわ」

 エミリアは、アーサーの伸ばした左手にすっぽりと収まると、頬を赤らめて夫を見上げた。

 どこか満足そうな夫は、眼鏡を外そうとする。

「あっ」

 思わずエミリアは、声を上げた。

「なにか?」

「……いえ」

「なんでも言いなさいと、何度言ったらわかるのかな」

「その……外してしまわれるの?」

「これかい?」

 わずかに眉を上げたアーサーは、眼鏡を元に戻した。

「きみが待っているのなら、もう仕事は終わりにするよ。これも見苦しいだろうからね」

「そんなことはありませんわ」

 薄暗い夜の居室でも、エミリアの頬は赤く色づいている。

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