ダドリー夫妻の朝と夜
「もしかして、熱でもあるのか」

「いいえ」

 アーサーはエミリアの両頬を挟むと、額と額をつけた。

「熱くはないように思えるが」

「ええ、なんともないのですもの」

 額を離すと、アーサーはエミリアの髪をかきあげた。姿を現した耳も、ほんのりと赤い。

 眼鏡越しにじっくり観察されたエミリアは、いたたまれなさに身悶えした。

「そんなにご覧にならないで」

「きみは、わたしを見てくれないのに?」

 エミリアは、ほうっと息をつくと、観念した。

「……だって、アーサーが眼鏡をかけているから」

「だから、外すと言っているだろう」

「……だから……」

 要領を得ない妻の言葉を吟味した結果、アーサーはまさかと声を上げた。

「これが気に入っていたのか」

 ぷくりと唇を突き出したエミリアは、アーサーをじっと見上げてから、こくんと頷いた。
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