ダドリー夫妻の朝と夜
 聡明なアーサーが眼鏡をかけると、ますます知的さが増す気がする。

 随分と前の朝に一度見かけたことがあり、そのときにもつい見とれてしまったのだ。

 そのとき以来の眼鏡姿であったが、やはりアーサーにはよく似合う。いつになってもアーサーを見るだけで高鳴る胸が、いつもよりさらに強く主張し、直視できない程度には。

「あなたのほとんどすべてが、わたくしのお気に入りよ」

「なるほど、全部ではないと言うのなら、なにが奥方のお気に召さないのだろう」

「……文句のつけようがないことかしら」

「それなら、わたしもだ」

 アーサーは大きな手のひらでエミリアの頬をすくい上げ、再び額をコツンと擦りつけた。

 これはどうやら、夫の気に入りの仕草だとエミリアは思う。

 寝室を共にするようになってから彼は、朝に夕にこうしてエミリアに触れる。時に彼女の加減を心配して、時にこみ上げる愛しさに耐えかねたとでも言うように。

 エミリアは、うっとりと目を閉じる。そして、細い指で夫の髪を撫でる。そうすると夫は必ずキスをくれるからだ。


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