見つめていたい
それは必然に
電車を乗り継いでから約1時間30分、ようやく目的地の駅に到着した。

そこからバスに揺られおよそ約15分、窓から見える景色は、都会では見られない緑一色の別世界に変わってゆく

バス停から坂道を上がって数分、木洩れ陽と共に小鳥の可愛らしいさえずりがこだまする、小さな木々のトンネルをくぐり抜けると、丘の上にそびえ立つ大きな建物で、思わず目を疑ってしまうお城のような校舎が目の前に現れた。

「きれい…!」

そう、ここが今日から私の通う憧れの東ヶ丘高等学校、待ちに待った初登校の日なのでした。

白い階段を駆け上がると、学校の玄関にたどり着いて

受け付けの上級生の人から大きな封筒を受けとると、私はその中から、クラス名簿を真っ先に取り出したのだ。


えーと…・・・わたる・・・


1組の名簿を端から端まで指でなぞりながら、お目当ての漢字を探していた

けど、期待もむなしく、無い…

何回見直しても ない ない ないよおッ!

「はぁ~・・・」

ショックのあまり、思わず天を仰いでしまった。


「くるみッ どうしたの?」


ーーアナウンスーー
『新入生の皆様、名簿確認ができましたら、各自教室でお待ち下さい・・もう一度繰り返します・・・』


「え?・・な、何でもないよ…それじゃあお母さん、私、1 組だから、教室行くね!」


私のクラスは1年1組、席は廊下側の前から3番目だった、隣の席の女子以外、周りの席はみな男子生徒ばかりだ。


それもそのはず、もともとは男子校だったけれど、数年前から共学になったらしく、女子生徒の比率は低いらしい、1クラス30人中、女子は私を含めたったの5人だけ。


まだ数名、来ていない人がいるようで、窓ぎわ周辺の席はまだ空いていた。


・・・


「あの…あたし、東中出身の、片平朱音です、よろしくね」

隣の席の人が挨拶をしてくれた、ショートカットの似合う優しそうな感じの子だ

「鷹松中出身の、愛原胡桃です、私のほうこそよろしくね」

片平さんは私の出身中学を知ると、少し表情が変わった。

「鷹松中って、何処にあるの?」

無理もない、この町の遥か遠い別の町にあるのだから、知らなくて当然だろう。

「東京だよ」

「と、東京!…遠いね、でも、いいなあ…」

「私はこっちの方がいいかなぁ、のどかっぽいし、空気も綺麗そうだから」

「空気…?…この街、なんにもないから嫌い…」

「そんなことないよ、美しい物がいっぱいあると思う」

「えー…そんなのあった?…」

「えーと川とか、山とか、緑豊かな森とか・・」

「それ…当たり前だよ、ははは 愛原さんて、面白いね!」

「!?…・・」


確かに通学には遠い、けれど・・私には、どうしてもこの学校に入りたいという理由があった。



「はじめまして、担任の佐藤美智子です、よろしくね、これから皆さんとともに・・・
・・・それでは、これから、講堂に移動します・・それと・・」


先生の話も上の空で窓側の方を見ていると、外に見える木々の緑が、あふれる太陽の光を反射させて、緑のキャンバスの中に、見覚えのあるシルエットを映し描いていた。



「新入生のみなさん、ご入学おめでとうございます、そして・・・
ーーーー
・・それではみなさん、有意義な高校生活を過ごして下さい」


東ヶ丘高校の校長先生のスピーチが終わった。


入学式も終わり、座っていた場所から順番に2列に並んで退場する。


私の番が来た、その時私の横に並んだのは、男子生徒だった。

スラっと背が高い・・・顔とか見えないから良く分からないけれど・・

ある人に似た雰囲気を持っていた。

「…!?…」

長時間座っていたせいなのか、ふらふらしてきた。

前の男子ふたりは、どんどん離れて行く、けれど、カラダが動かない…早くしなくちゃ、このままじゃおいていかれてしまう・・

でも、まったく歩き出さない彼、すると


「どうしたんだよ?」

「…ちょ、ちょっとフラフラ…」

「座ってろよ…俺も残るから」

「ありがと…でも…大丈夫です」

「いや…無理すんな!」

「ほんと、大丈夫です…」

「……」


そう言ったものの

キツイ…

私はふらつきながらも立ち上がって、なんとか…隣の彼に合わせながら歩き始めると、拍手の音がだんだん小さくなって……

目が霞む…

もう・駄目・・

目の前が暗くなって・・・

愛原?・


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