見つめていたい

そのあとも、彼を見かけたりしたけど、まともに顔を見られなくて…

好きになればなるほどね…


愛菜が、教室に忘れ物をして戻った時があった。

私はゆっくり校門まで歩いていると、愛菜に後ろから呼ばれて振り向いた時…

あの日は夕やけが眩しい時だった…

愛菜の後ろの校舎の窓に、ひとりの男子生徒が見えた。

橙色に染められた彼…よく見ると渡部くんだった。

なぜかひとりの彼が、私のことを見ているような気がして、思わず嬉しくなってしまった。

たぶん他の人を見ていたのだろう。

けど、あの時が最初で最後に見た、彼の笑顔だった。


3年生になって、進路も決まらないままに、卒業まであと3カ月、今年のバレンタインには渡部くんに渡そう、そして気持ちを伝えよう…

そう思っていたやさき、富永さんと小宮くんの話を耳にした。

「かずま、やっぱ転校するんだってさ…」

「…やだ!…」

始め、どういうこと?…自分の耳を疑った。

信じたくないけど、愛菜もその話は知っていた。

「渡部くん転校するらしいよ…」

「ほんと…」

愛菜の友達によると、渡部くんは静岡に引っ越しをし、そして、東ヶ丘高校というところを受験するらしいと、お友達から聞いた。
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