緋色の勇者、暁の聖女


「――――ちょっと、ヒイロ!」


 しばらく歩いていると、急にカナリに腕を引かれた。レイとクレールはそれに気が付かずに、前を進んでいる。

 びっくりしてカナリを見ると、彼女は機嫌の悪そうな顔で僕を睨んでいた。どうやら怒っているみたいだ。

 でも全然心当たりが無い。


「な、何?」

「何? じゃないよ! 何であんな事、言ったの?!」


 僕はカナリが何を怒っているのか、本当に分からなかった。ポカンとしていると、今度は彼女は掴んでいた腕を乱暴に振り払った。


「もっと急ごうって! 何でレイにあんな事言ったのよ!」

「ええ?! 何でって……」


 僕はただ、予定が遅れているからそう言っただけだった。

 みんなにアエーシュマを早く倒してくれって言われてるし。僕だって怖いけど、みんなの期待に応えられるように頑張ろうって思ったから……

 だけどカナリは、それが気に入らないみたいだ。カナリもアエーシュマを早く倒したいと思っているはずなのに。


「キミはそんな事、言っちゃダメなの!」

「どうして? カナリだって早くアエーシュマを倒したいんでしょ?」

「それはそうだけど……」


 カナリは急に口ごもってしまった。

 どうして、急いではダメなんだろう?


「――――とにかく! キミはあんな事言っちゃダメなの! 絶対! 絶対! ダメなの!!」

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