緋色の勇者、暁の聖女
「あのねえ、キミ!」
どうやらカナリは少し怒っているみたいだった。イライラした口調で早口にまくし立てる。
「勇者はなるもんじゃないの! 聖女が決めるの! ――――で、キミが聖女に選ばれたの! だからキミはもう勇者なんだよ! 分かった?!」
分かったか、と聞かれてもやっぱり全く分からない。
その聖女とかっていう人が勝手に決めたみたいだけど、僕にしてみればいい迷惑だ。何の説明も無く、いきなりこんな世界に連れてこられたんだから。
困ったような、泣きそうな、何とも情けない顔を僕はしていたのかもしれない。実際、そんな気持ちだった。
「そんな事言われても……」
カナリもクレールもあまりに情けない顔を見て、そんな僕の心を全て悟ったのか、それとも呆れられたのか。もうそれ以上何も言わなかった。
少しホッとした半面、それでも帰る事は出来ないみたいだ。不安で、その夜僕はあまり眠れなかった。
――――やっと眠れた明け方、夢を見た。
僕が自分の世界で最後に暁さんと一緒にいた、あの屋上の夢。夢の中で暁さんは声が出るようになっていて、優しく微笑みながら僕に言った。
『緋絽くん、一緒に頑張ろう』
初めて聞いた暁さんの声は、やわらかくて優しい声だった。僕がそうだといいと思っていたからかもしれない。
暁さんは頑張ろう、と僕に言った。
何を頑張ればいいのか聞こうとしたら、カナリの賑やかな声がガンガンと頭に響いて来て、僕は現実に引き戻されてしまった。