緋色の勇者、暁の聖女
 太陽が真上に昇った頃、僕たちは森の中にある小さな街へ到着した。

 街といってもやはり簡素な家や店が少しあるだけで、今まで見てきた所とあまり違いはない。だけど他とは違ったのは、街の一番奥にひときわ大きくて立派な石造りの建物が建っている事だった。

 それは、場違いな程大きく真新しい。

 まるでヨーロッパとか海外にある教会を思わせるような外観。白い壁や柱には美しい模様が施され、窓には奇麗なステンドグラス。

 聖堂の前は石畳の広場になっていて、そこでは聖堂に向かって祈りを捧げている人が何人もいた。


「――――ここが聖女のいる聖堂だよ。何度も災害やアエーシュマに壊されたけど、その度にみんなで力を合わせて再建してきたの」


 聖堂の正面で立ち止まり、それを見上げながらカナリはそう言った。その言葉に、この世界の人たちが聖女をどれ程大切にしているかが伝わってくる。


 世界を救ってくれる暁の聖女……どんな人なんだろう。


「じゃあ、中へ入ろう。聖女が待ってるよ!」


 明るくカナリに促され、また歩き出した。でも聖堂に近づくにつれ、僕の心臓は壊れそうなくらいドキドキしていく。

 僕は――――聖女に会ったら、僕は勇者になる事を断るつもりだった。そして、元の世界へ帰る方法を教えてもらう。聖女が勝手に僕を連れてきたんだから、帰る方法を知ってるはずだろうから。

 人前で話すのはあまり得意じゃない。ましてや『聖女』だなんて凄い人にそれを言うなんて。だからこれから言わなければいけない言葉を、何度も何度も頭の中で繰り返していた。
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