【続】0.0000034%の奇跡
「でも私、結婚してるので」
事実を突きつけ断るほか術はない。
「そして佐藤さんは患者さんで、私はいち歯科医師です……これからもその関係性で居るのはダメですか?」
こう言えばなかなか反論出来ない状態に持っていける。
あれこれ考えてやっと出た、一番しっくりくる断り方なんですが。
困り果てた相手に最後のトドメ。
「私は、それ以上のことは出来ません…此処で佐藤さんの歯の治療やケアを施すことしか考えられないのですみません」
「うっ……でも……」
これはカナちゃんに教わった手法。
どんな相手でも誠意を持って断るべきなんだ。
真っすぐ見つめたら優しく笑う。
気付かれないうちに自分のペースに引き込めば勝ちだよって。
中途半端だけは絶対ダメだって。
「施術、始めていいですか?」
優しく笑ってマスクを付ける。
いつも通りの施術。
いつも通り歯科医師としてのアドバイス。
それでも最後、諦めの悪い患者さんは居る。
「あのっ、先生の気持ちはわかりました……でも、ただ、勝手に好きで居てもいいですか?憧れっていう形で……」
顔を真っ赤にして言ってくれたその勇気には毎回ながら人として背筋を正される気がする。
ここはマスクを取って対応。