【続】0.0000034%の奇跡



セットの中を歩いて行くと予め用意されていた可愛いコンパクトカー。
景色はCG使うとのことで走る様子だけを撮る。
その間も歌いっぱなし。
気持ち良く歌いながら時々周りの目も気にする小芝居も織り交ぜて。




「ラストシーン入りまーす!」



スタッフさんの声に背筋を伸ばす。
まさかここでも着るハメになるとはね。
普段通りの私ってことだから致し方ないのは重々承知していますが。
まぁ、これを見て私の本業を思い出して頂けるならと袖を通しております。



歌を歌っていた私から歯科医師になる瞬間のシーン撮影。
実際にクリニックで使っている器具や配置などそっくりそのまま再現して頂いて有り難いです。



紺色スクラブの上に白衣を羽織り、歩きながら髪をアップにし診察室へ入って行く。
最後にマスクを付けたら患者さんの台を倒す。
ちょうど患者さんから私が見える位置にカメラが設置してあって、施術している様子が患者視点で映っている。



曲は最後の伴奏部分で私のいつも言っている一言で映像は終わりを迎える。
職場以外で言うことはないから余計に照れてしまうけど赤らむ頬はマスクで上手く隠せているだろう。
どんな場合でも必ず患者さんにかける最初の言葉。



「はい、お口開けてください」



いつも通りの表情で言えたら………






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